2022年6月・・・海底を調査していたコロンビア海軍が1708年に沈没したスペイン財宝船2隻を発見しました。
積み込まれた金銀や美術品・・・政府が発表したその価値は、2兆2000億円!!
当時カリブ海では、中南米で取れた宝石や貴金属をヨーロッパに運び込む船が盛んに行き交っていました。
その財宝船を狙う奴らが・・・カリブ海の海賊です。
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かつてハリウッドで盛んに作られた海賊映画・・・
一攫千金を狙って生きるか死ぬかの一発勝負!!
硬い絆の仲間たち・・・自由を愛する陽気なヒーロー・・・それが映画や物語に登場する海賊のイメージです。
しかし、カリブの海賊の時代にその実態を描いた本があります。
1678年「アメリカの海賊」(ジョン・エスケメリング)・1824年「もっとも悪名高い海賊の強奪と殺人の歴史」(チャールズ・ジョンソン)です。
そこに記された海賊の残虐さは・・・
捕虜を的にして射撃の腕を競い合う
甲板に捕虜を集めて大砲を放つ・・・何人死ぬのかかけをする
極めつけは頭を縄で縛り、棒を差し込み、目玉が飛び出るまでねじる!!「ねじりあげ」という拷問です。
残虐であればあるほど一目を置かれるのが海賊の世界・・・!!
なかにはあまりに残虐で、「奴に捕まるくらいなら死んだ方がまし」と噂された海賊が、フランシス・ロロノア・・・フランス人でした。
ロロノアが内陸の町に向け森の中を進んでいると、スペイン兵の待ち伏せに遭います。
反撃して何人か捕虜にすると、怒り狂ったロロノアは、にわかに短刀を抜いて捕虜の胸を切り裂き心臓を手づかみで取り出すと・・・
「安全な道を正直に教えろ!!さもないとお前たちもこうしてやるぞ!!」
見せしめのため、別の捕虜の口に心臓を突っ込んで食べさせました。
海賊は、楽しい時にも、腹を立てた時にも、同じようによく人を殺しました。
彼らの笑顔の中には、危険が潜んでいました。
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カリブの海賊のきっかけは・・・
1492年コロンブスの「新大陸」再発見以来、カリブ海はスペインが支配していました。
1655年、新大陸への進出に出遅れていたイギリスは、カリブ海に貿易拠点を築こうとジャマイカ島を攻略。
イギリスは国の財源となる大規模なサトウキビ畑を開拓します。
そこで強制的に働かされた人がいました。
年季奉公人・・・植民地の地主に雇われた期間限定の白人奴隷です。
本国で多額の借金を抱えた貧民や失業者、犯罪者でした。
そんな食い詰め者たちが、カリブ海に送り込まれたのです。
ムチで打たれながら、劣悪で、過酷な環境で働かされる日々・・・
ここで死ぬくらいなら犯罪者の方がましだと逃げ出した人々が、無法者、海賊となりました。
生きるということが全て・・・力の強い者、暴力を持つ者が君臨して行く場所・・・それが、カリブ海の海賊の世界でした。
しかし、いくら無法地帯とはいえ、海賊行為はもちろん犯罪でした。
イギリスやスペインなど国家の役人に捕まれば縛り首でした。
ところが、海賊の中には、国の制度を利用して英雄になりあがる海賊も・・・!!
ヘンリー・モーガン・・・イギリス生まれの策略家です。
15歳の時、年季奉公人としてカリブ海に送られたモーガンは、一発逆転の野望を抱いて海賊となりました。
欲望まみれの海賊たちは、奪ったお金は酒場や娼館で使い果たします。
しかし、モーガンは金を節約し、貯金を続けました。
30歳の時、ためたお金でジャマイカ島で小さな農園を買います。
「身分が違うのはわかっている
でも、結婚してほしい」
農園の地主として貴族であるジャマイカ総督一族の娘と結婚。
堅実な人生設計でしたが・・・築いた地位をもとに、モーガンは33歳で私掠免許を手に入れます。
海賊らしくない生活は、全てこのためでした。
私掠免許とは・・・イギリス国王から貴族や商人など金持ちの船主に発行される略奪許可証です。
つまり、国家後任の海賊免許でした。
これがあれば、イギリスの宿敵スペイン相手にいくら略奪、殺人を起こしても罪には問われません。
モーガン最悪の略奪は、パナマ北部のポルトベロ。
当時はスペイン領で、財宝輸送拠点のひとつであり、難攻不落の砦を備えていました。
その砦に、海賊460人を率いたモーガンが襲い掛かります。
しかし、砦に近づくことができません。
するとモーガンは、神をも恐れぬ作戦に・・・!!
町の教会や修道院から神父や修道士、修道女を無理やりかき集め・・・彼らに梯子を背負わせ砦の城壁に架けさせたのです。
「こいつらを人間の盾にして攻め込め!!」
敬虔なカトリック信者のスペイン兵士たちは、聖職者を撃つことが出来ず、砦は陥落。
スペインの拠点の地を手に入れたモーガンは、1カ月に渡り拷問・強奪・殺戮・凌辱・・・莫大な財宝迄ふんだくりました。
「私掠免許があれば、なにも恐れることはない
やりたい放題だ」
そんなモーガンに、イギリス王室はナイトの称号を授与、さらに、ジャマイカ副総督に任命しました。
若き頃からの野望を果たしたのです。
一方、イギリスも私掠品の略奪で、植民地が潤うのだからぼろ儲け!!
国が過酷な労働に送り込んだ年季奉公人が海賊となり、国も海賊を利用して豊かになる・・・!!
そんな無法地帯の悪循環がカリブ海の海賊を生んだのです。
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1692年、時代は大転換!!
敵対していたイギリスとスペインが和平を結び同盟国となります。
私掠免許は無効となり、海賊は縛り首!!海賊の取り締まりが強化されることになりました。
そんな逆風に逆らって、ずる賢さで生き残ろうとした男がいました。
真夜中の裏切り者ヘンリー・エヴリーです。
その海賊人生も、裏切りから始まりました。
エヴリーは、元は海賊を取り締まるイギリス艦隊の兵士でした。
ある真夜中、エヴリーの乗る船が静かに動き出します。
船長が眠るのを見計らい、エヴリーが勝手に出航させたのです。
「これからは俺様がこの船の船長だ!!
海賊を取り締まるより、海賊になった方が大儲けができるぜ!!」byエヴリー
一夜にして船長の座と85人の手下を手に入れました。
取り締まりが厳しいカリブ海を避け、インド洋へ略奪三昧・・・!!
エヴリーは、440人と6隻を従える大海賊となりました。
エヴリーは手下に命じます。
「奪った財宝を6隻の船にバラバラに積んでいると、誰かがちょろまかすかもしれねえ
そこで、親分であるオレの船にまとめて積み俺がしっかり守ってやる!!」byエヴリー
ところが・・・
「この船には一生安楽に暮らせるだけの財宝がある
他の奴らのことなど知ったこっちゃねえ!!」byエヴリー
真夜中、眠ってしまった5隻の手下を置き去りにして、財宝を持ち逃げしました。
エヴリーは余生を過ごすために故郷のイギリスへ・・・!!
ところが、財宝を現金に換えるため町の商人に預けたが・・・
「いいんですか・・・??
あんたがお宝をどうやって手に入れたのか、役人にばらしたら縛り首ですよ」by商人
悪徳商人の方が一枚上手・・・まるで陸の海賊でした。
あわれ・・・ほぼすべての財産を奪い取られたエヴリーは貧乏暮らしの末に病気となり、37歳で死亡。
自分の棺の代金さえ、残っていませんでした。
海賊としては策士でも、陸では子ども扱い・・・
それが追い詰められた海賊の現状でした。
こうして数を減らしていったカリブの海賊・・・
しかし、その後、またもや国家の都合が海賊の運命を変えます。
きっかけは、1702年、イギリスとスペインの関係が再び悪化。
スペイン継承戦争が始まります。
この戦争で、海軍力に劣るイギリスは、「私掠免許」を乱発します。
1600隻以上が「私掠船」となりました。
スペインの輸送船を相手に大暴れ・・・!!
略奪で大儲けのチャンスです。
何万人もが、私掠船の船員になったのですが・・・以前とは大きく条件が変わっていました。
私掠船が奪った略奪品は、10%をイギリス政府が徴収、残りの90%を、船主・船長・船員たちで30%ずつ分配・・・つまり、乗組員が50人ならば船員1人の取り分は0.6%となります。
船長の1/50でした。
うまい汁を吸ったのは、船主や船長だけ・・・一攫千金の夢などありませんでした。
海賊も組織の中に組み入れられたサラリーマン海賊となってしまっていました。
大きな夢は見られずに、ある程度の収入を確保していく・・・
それが私掠免許のもとで行われていました。
さらにこの後も、国の都合が変わり、海賊たちは振り回されます。
1713年、スペイン継承戦争終結。
「私掠免許」が無効となり、私掠船は廃止、多くの船乗りが失業します。
すると今度は、船主であるイギリス貴族や商人が悪徳業者と化しました。
船乗りが運よく働き口を見つけても、人余りに付け込む船主から船員は凄まじい搾取に合うのです。
強欲な船主に買いたたかれ賃金は50%カット、航海の最中、船長は出来るだけ少ない予算で積み荷を運ぼうと船員の食費を切り詰め、そのうえ、長い航海の気晴らしに船員をムチで虐待するなど繰り返す者もいました。
まるで、「年季奉公人」に逆戻りしたような状況でした。
船乗りは・・・
「理不尽な支配に対する憎しみが、その後の俺の人生を決めた
国家が俺たちを使い捨てにせず、法的な支援をしてくれたなら、これほど多くの船乗りが海賊になることはなかっただろう」
かたぎの船には絶望しかない・・・!!
船乗りの5人にひとり、2000人ほどが海賊となりました。
ところが、そうした海賊の中から、国家や商人の不条理な支配に立ち向かう男がいました。
人呼んで海賊の先生ベンジャミン・ホーニゴールドです。
有名な海賊黒ひげなど、多くの船長を育てた親分肌のイギリス人です。
ほーにゴールドは、輸送船を襲うと、いつも船員に奇妙な質問をしました。
「お前の船の船長は、いい奴か?それとも悪い奴か?」
船員がいい船長だと答えると、その船長にボートを与え、食料を渡して解放しました。
しかし、船員が船長に虐待され悪い奴と答えると・・・鼻を削ぎ落し、耳を切り取りました。
権力を嫌い、船乗りの気持ちを大事にするホーニゴールドの元には、海賊たちが続々と集まりました。
また、いくら海賊が集まっても、財宝を監禁するとき悪徳商人に騙されたら元も子もない・・・
そこで、ホーニゴールドが始めたのが、新たな拠点づくりでした。
目をつけたのがバハマ諸島のひとつ・・・ニュープロヴィデンス島です。
イギリス領でしたが、戦争でスペインの攻撃を受け、荒れ果てたまま放置されていました。
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1715年、ホーニゴールドはこの島に拠点を定め、他の海賊団も誘ったため2000人の海賊が集まる町として復興します。
すると、金の匂いにつられ商人たちも集まってきました。
「海賊の金を当てにするほど欲に目が眩んだ悪徳商人なら、役人に密告しないだろう」byホーニゴールド
しかし、つられてきたのは商人たちだけではありませんでした。
復興した島を支配下に治め、利権を手にしようとイギリス政府が行政官を送りこんできました。
すぐさまホーニゴールドは、行政官の屋敷を訪ね言い放ちます。
「もしも海賊に手を出してみろ、家を焼き尽くしてお前を殺す!!
家族はムチで打ち据えてやる!」byホーニゴールド
怯えた行政官は、島から逃げ出しました。
ホーニゴールドは、島の人々を集めて宣言します。
「この島は、イギリスに見捨てられた
これからは俺たち海賊が守る!!」byホーニゴールド
イギリスの支配を離れ、海賊の自治区となったニュープロヴィデンス島。
人々は、この不思議な共同体をこう呼びました。
その名も”海賊共和国”と!!
1715年、バハマ諸島ニュープロヴィデンス島に海賊共和国が誕生。
およそ2000人の海賊たちの拠点には、商人や娼婦なども集まり、中南米有数の町として繁栄します。
ここではならず者もみんな仲間・・・共同体の秩序を守るために驚くべきルールがありました。
この「海賊の掟」を守ることが仲間の絆を維持し1人ひとりの利益になる!!
・各人は重大事項の決定に際し、1票の権利を有する
海賊船では、次の略奪目的や船長を選ぶなど大事なことは投票で決めます。
身分や立場に関係なく、1票の権利があります。
船長が信頼できなければ、投票で辞めさせることもできます。
・船長は戦利品の2人分、そのほかは1人分を取得
戦利品は、乗組員みんなで公平に山分けです。
船長さんは、責任があるので多めですが、2人分に抑えています。
私掠船の場合は、乗組員は船長の何十分の一で下から、格段の待遇のよさ!!
乗組員も”やりがい”をもって「略奪」できます。
・敵と交戦中に四肢のいずれかを失った者には150ポンドを支払い、 船に残ることは自由とする
ケガをした時の補償も充実
5年間は遊んで暮らせるだけのお金が支払われます。
職場に残ることもできるとは、至れり尽くせりの労災補償です。
危険を伴う仕事なので、雇用規約が生まれました。
自分達はルールに縛られながら、外に向かってはルールを逸脱した行為をする・・・
非常に矛盾した世界の中で生きていました。
1718年、カリブの海賊は5000人に増え、400隻が海を荒らしまわりました。
海賊黄金時代の最盛期を迎えていました。
しかし、イギリスやスペインが黙っているわけもなく・・・
海賊の被害は前輸送船のおよそ半分・・・2500隻が襲われる甚大なものになっていたからです。
海賊は、スペイン帝国、大英帝国、デンマーク、オランダ、フランスなど、ヨーロッパ経済の生命線となっていました。
「新大陸」との貿易にとって、脅威になりつつありました。
全ての帝国は、海賊共和国を憎み、海賊の排除を目論んでいたのです。
それぞれの国が、海賊討伐のため軍艦を急造、カリブ海に派遣!!
世界が海賊共和国の壊滅に向け動き出していました。
1718年、海賊共和国は誕生から3年がたち、最盛期を迎えていました。
この壊滅を狙うイギリス政府は、イギリス最強の切り札を投入します。
ウッズ・ロジャーズ・・・世界一周の偉業を成し遂げたイギリスの英雄です。
元私掠船員・・・海賊としてその強さも弱点も知り尽くした男でした。
1718年7月24日、ロジャーは7隻の軍監で海賊共和国に乗り込みました。
ところが、ロジャーズが海賊たちに示したのは温情策でした。
恩赦令でした。
「武装を解除して投降すれば、国王はお前たちのこれまでの罪を許して下さる
略奪で稼いだ金を持ったまま余生を過ごすことができる
もし、恩赦に逆らえば、取り締まりによって縛り首だ
どちらか好きな方を選ぶがよい」
海賊たちは直ちに対応を話し合います。
しかし、意見は大きく割れました。
恩赦賛成派・・・「海賊の先生」ホーニゴールド
海賊共和国を作った男がなぜ・・・??
「俺たちはこれまで100年暮らせるほどの財宝を略奪してきた
恩赦を受ければ、何の心配もなく、生まれ故郷に戻って余生を過ごすことができる
こんなにおいしい取引を断わる奴は間抜けだぜ」byホーニゴールド
恩赦拒否派・・・「ホーニゴールドの弟子」黒ひげ
「国王や議会なんぞくそ食らえだ
俺たちが敗れるときは船の火薬庫にピストルをぶち込んで木っ端微塵
そろって陽気に地獄へ行くのさ!!」
翌日夜・・・イギリス艦隊が大爆発!!
恩赦を拒否する海賊が、火薬を積んだ船をイギリス艦隊にぶつけたのです。
しかし、全てはロジャーズの狙いのうちでした。
直ちに、恩赦派のホーニゴールドに拒否派の討伐を命じました。
「国家に歯向かうならず者を捕まえたら、ひとりに付き30ポンドの報奨金を出そう!!
船長なら100ポンドだ!!生死は問わない!!」
仲間をひとり捕らえれば1年から3年暮らせる高額賞金!!
同士討ちをそそのかされたホーニゴールドは、3週間後・・・
10人の海賊と3人の死体をロジャーズに差し出しました。
莫大な賞金を得たホーニゴールドは、海賊ハンターとして元の仲間を捕らえ続けました。
一方、恩赦令を拒否した黒ひげは、カリブ海を離れ、北アメリカで海賊行為を続けていました。
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1718年11月22日・・・
黒ひげは、自らイギリスの軍艦を攻撃!!
酒を煽りながらイギリス軍艦に吠えます。
「オレは、貴様を見逃そうとは思わねえし、命乞いしようとも思わねえ!!」
これが最後の言葉となりました。
絶命した黒ひげの体には、20カ所の刀傷と5発の銃弾が残されていたといいます。
黒ひげの片腕ブラック・シーザーは、遺言を託されていました。
「俺が死んだら火薬庫に火をつけて、船を爆破しろ」
しかし、寸前で逮捕。
シーザーら手下たちはみな、縛り首となりました。
処刑の直前、ひとりが海賊の魂を叫びました。
「もっと悪事を働かなかったことが心残りだぜ!!」
恩赦令を拒否した海賊たちは、毎月数十人処刑され続け、海賊共和国はわずか3年で崩壊しました。
一方、恩赦令を受け入れたホーニゴールドは、莫大な財産をもとに余生を丘で過ごすはずでしたが・・・
イギリス政府に従い「海賊狩りを」続ける中、逮捕、処刑されます。
捕まえたのはホーニゴールドに恨みを持つスペイン海軍でした。
その後、カリブ海は国力を増したイギリスが制圧。
輸送船を守る数多くの軍艦の武力によって、海賊は消え去っていきます。
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